妊娠初期に知っておきたい出生前検査の基本
妊娠がわかったとき、多くの方が最初に感じるのは、「無事に育ってくれるかな」という素直な気持ちではないでしょうか。そうした気持ちの延長線上で、「赤ちゃんのことをもう少し知っておきたい」「もし何かあったら、早めに気づいて備えたい」と考える方が近年、日本でも大きく増えています。
その背景には、「出生前検査」と呼ばれる検査、とくに近年注目されている NIPT の広まりがあります。この記事では、これまでの出生前検査の歴史をやさしくたどりながら、「今、日本で何が変わってきているのか」を、公的なデータとともに整理していきます。
以前は「羊水検査」が中心。いま、その位置づけが変わりつつあります
日本で出生前検査というと、長らく中心にあったのは羊水検査でした。羊水検査は 1968 年に日本に導入された歴史のある検査で、染色体異常などを「確定的」に診断できる唯一の方法として、長年、多くの妊婦さんに選ばれてきました。
その一方で、羊水検査はお腹に直接針を刺して羊水を採取するため、ごくわずかとはいえ流産のリスク(一般に 0.1〜0.3%程度と報告)を伴います。「本当に受けるべきか、迷ってしまう」という声が、以前から少なからずあったのも事実です。
この状況を大きく変えたのが、2013 年に日本に導入された NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)です。母体からの採血だけで、赤ちゃんの染色体異常の可能性を高い精度で調べられるそんな検査が、日本でも実際に受けられるようになった転換点でした。
データで見る「実施率の変化」
2026 年に国立成育医療研究センターから公表された全国調査によると、日本の全妊婦のうち、なんらかの出生前遺伝学的検査を受けた方の割合は、2011 年頃の約 3%から、2023 年には約11.5%へと、この十数年でおよそ 4 倍にまで増加しています。
実際、街中でも「NIPT を受けようか迷っている」「友達が受けたと聞いた」といった話題が、以前とは比べものにならないほど身近になってきました。検査を受けるかどうかは、あくまでご自身の考え方次第ですが、「知っておく」「選択肢として持っておく」という姿勢は、ここ 10年ほどで確実に一般的になってきていると言えます。
NIPT は伸び、羊水検査は減っています
同じ調査からは、もうひとつ興味深い変化も見えてきています。NIPT 導入以降、羊水検査などの侵襲的検査は大きく減少している一方で、NIPT を受ける方は着実に増えているという傾向です。
羊水検査は 2003 年の約 1.3 万件から徐々に増加し、2012 年に約 2.0 万件でピークを迎えた後、NIPT 導入以降は減少に転じ、2023 年には約 8,500 件までゆるやかに戻っています。一方でNIPT は、日本に導入された 2013 年の 3,456 件から、2018 年頃までは 1 万 4,000 件前後で推移していましたが、2022 年以降に大きく伸び、2023 年には 61,507 件へと急激に増加しました(国立成育医療研究センター2026 年発表による)。
つまり、「確定的検査を最初に受ける」時代から、「まず NIPT のような負担の少ない検査で全体像を把握し、必要に応じて確定検査を検討する」時代へと、日本の出生前検査のあり方そのものが変わりつつあると言えます。
少しだけ振り返る、出生前検査の歩み
「そもそも出生前検査って、いつから行われているの?」そう感じる方も多いと思います。ここで、代表的な流れを振り返ってみます。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 1966 年 | 羊水穿刺による染色体分析が世界で開始される。 |
| 1968 年 | 日本に羊水検査が導入。以来、確定的検査の中心として長く使われてきました。 |
| 1970〜80 年代 | 母体血清マーカー検査(トリプル、クアトロ)などの非確定的検査が登場します。 |
| 1997 年 | 香港中文大学の Dennis Lo 博士が、妊婦さんの血液中に赤ちゃん由来の DNA 断片が存在することを世界で初めて報告(Lancet 誌)。後の NIPT 誕生の出発点となりました。 |
| 2011 年 | 米国で NIPT が世界に先駆けて臨床応用されます。 |
| 2013 年 | 日本で NIPT が臨床研究として導入。当初は全国15 施設からのスタートでした。 |
| 2022 年 | 日本医学会「出生前検査認証制度」が始まり、全国の認証施設で標準化された形で NIPT が提供されるようになりました。 |
こうしてみると、「妊娠中に赤ちゃんの染色体を調べる」という考え方自体は、実は半世紀以上前から積み重ねられてきたものだと分かります。そのなかで、赤ちゃんへの負担がより少なく、妊娠初期から検討できる検査として、NIPT が新しい選択肢として広がってきたのです。
世界では、NIPT はどう受け止められているの?
「日本で増えているのは分かった。でも、海外ではどのくらい一般的なんだろう?」そんな疑問を持つ方もいらっしゃると思います。実は、国によって差はありますが、世界的にみると NIPTは「妊婦さんの標準的な選択肢のひとつ」として広く受け入れられてきています。
アメリカ:全妊婦に推奨される時代へ
アメリカでは、米国産科婦人科学会(ACOG)と母胎胎児医学会(SMFM)が 2020 年に、「cfDNA スクリーニング(NIPT)は、年齢や妊娠リスクにかかわらずすべての妊婦さんに対して選択肢として提示すべきである」という趣旨のガイドラインを公表しました。これは、「高齢妊娠の方など限られた人向けの検査」から、「すべての妊婦さんに開かれた、標準的なスクリーニング検査」へと NIPT の位置づけが大きく変わったことを示しています。
中国:巨大な規模での普及
中国では、2010 年代初頭から急速に NIPT が普及しました。大手ゲノム企業 BGI の発表によれば、同社は 2017 年末までに累計約 250 万件の NIPT 検査を処理し、河北省では 2019 年から2022 年までの 3 年間で、行政による無償の NIPT スクリーニングとして 119 万件が実施されたと報告されています。こうした規模感からも、中国では NIPT がすでに「妊婦健診の一部として一般的に受けられる検査」として広がっていることが分かります。
【日本と海外の位置づけについて】日本の NIPT は現在、日本医学会「出生前検査認証制度」のもとで、13・18・21 トリソミーの 3 疾患を中心に、丁寧な遺伝カウンセリングとセットで実施されています。海外に比べて広がるスピードは緩やかですが、そのぶん「正しく理解して選ぶ」ための体制が整えられてきています。
出生前検査は大きく「確定的検査」と「非確定的検査」の 2 つ
ここからは、いま日本で受けられる出生前検査を整理していきます。出生前検査は大きく分けて、「確定的検査」と「非確定的検査(スクリーニング検査)」の 2 つがあります。
確定的検査
羊水検査や絨毛検査など、赤ちゃん由来の細胞を直接採取して染色体を調べる検査です。結果はほぼ確実に診断できますが、お腹に針を刺すため、ごくわずかとはいえ流産などのリスクを伴います。
非確定的検査(スクリーニング検査)
NIPT、コンバインド検査、母体血清マーカー検査(クアトロ)、超音波検査などがこれにあたります。赤ちゃんに直接触れずに行える検査で、「病気の可能性が高いか低いか」を評価します。とくに NIPT は、非確定的検査の中でも際立って高い精度が特徴です。
主な出生前検査の比較
| 検査名 | 方法 | 受けられる時期 | 主にわかること | 結果の性質 |
|---|---|---|---|---|
| NIPT | 採血のみ | 妊娠 10 週以降 | 13・18・21 トリソミー(プランにより性染色体・微小欠失も) | 非確定的(精度は非常に高い) |
| コンバインド検査 | 採血 + 超音波(NT 計測) | 妊娠 11〜13 週頃 | 21・18 トリソミー | 非確定的 |
| 母体血清マーカー(クアトロ) | 採血のみ | 妊娠 15〜18 週頃 | 21・18 トリソミー、神経管閉鎖障害 | 非確定的 |
| 超音波検査(胎児ドックなど) | 超音波 | 妊娠初期〜中期 | 形態異常、NT 所見など | 非確定的 |
| 絨毛検査 | 絨毛の採取(針の穿刺) | 妊娠 10〜13 週頃 | 染色体異常全般 | 確定的 |
| 羊水検査 | 羊水の採取(針の穿刺) | 妊娠 15〜16 週以降 | 染色体異常全般 | 確定的 |
なぜ、NIPT を選ぶ妊婦さんが増えているのでしょうか
ここまでの流れを振り返ると、「なぜ NIPT を選ぶ人がここまで増えているのか」が少しずつ見えてくるかもしれません。大きくは、次のような理由が挙げられます。
- ・採血のみで受けられ、赤ちゃんへの負担がとても少ないこと
- ・妊娠 10 週目という比較的早い時期から検討できること
- ・非確定的検査の中では、群を抜いて高い精度を持つこと
- ・結果が「陽性・陰性」でわかりやすく示されること
- ・海外で長く使われ、実績が積み重ねられている検査であることもちろん、NIPT を受けるかどうかはご自身の考え方や、パートナーの方との相談によって決めていく大切な選択です。「みんなが受けているから」ではなく、「自分たちにとってどうか」を軸に考えていただくのが基本です。ただ、少なくとも「そもそも出生前検査という選択肢がある」ということを知っておくことは、これからの妊娠生活を安心して過ごすための第一歩になります。
妊娠初期に知っておきたいポイントの整理
最後に、妊娠初期のこの時期に押さえておきたいポイントを整理します。
- ・出生前検査には「確定的検査」と「非確定的検査」があり、目的や体への負担が異なります
- ・日本では 2013 年以降、NIPT の登場によって「まず負担の少ない検査で全体像を把握する」流れが広まりつつあります
- ・全妊婦に占める出生前検査の実施率は約 3%から約 11.5%へとこの十数年でおよそ 4 倍に増加しています
- ・アメリカや中国など、海外では NIPT がすでに「標準的な選択肢のひとつ」として広く受け入れられています
- ・受ける/受けないは、いずれの選択であっても、ご自身とパートナーの方の納得のうえで決めていくのが基本です
まとめ
妊娠初期は、体調の変化や新しい情報の多さに、少し戸惑いを感じやすい時期かもしれません。出生前検査についても、「よく分からないから、なんとなく怖い」と感じている方は少なくないと思います。
ですが、ここまで見てきたように、出生前検査は決して特別なものではなく、「妊娠中に赤ちゃんのことを知っておきたい」という自然な気持ちに応えるために、長い時間をかけて積み重ねられてきた医療の一つです。そして今、その中心に NIPT が加わり、多くの妊婦さんに選ばれる時代になっています。
受ける・受けないを決める前に、まずは「どんな検査があるのか」「それぞれで何が分かるのか」を知っておくことが、納得のいく選択への近道です。気になることがあれば、どんなに小さなことでもどうぞお尋ねください。医師との診察では、医学的なご相談もお気軽にどうぞ。
【参考文献】
- ・プレママクリニック 公式サイト https://www.premama.clinic/
- ・プレママクリニック 検査プランについて https://www.premama.clinic/plan/
- ・公益社団法人日本産科婦人科学会「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針」https://www.jsog.or.jp/news/pdf/NIPT_kaiteishishin.pdf
- ・出生前検査認証制度等運営委員会/日本医学会「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)とは」 https://jams-prenatal.jp/testing/nipt/
- ・出生前検査認証制度等運営委員会 令和 5 年度(2023 年度)実施状況報告 https://jams-prenatal.jp/file/nipt_report2023.pdf
- ・国立成育医療研究センター プレスリリース「NIPT 導入の前後 10 年間における各出生前遺伝学的検査を解析」(2026 年 4 月 9 日) https://www.ncchd.go.jp/press/2026/0409.html
- ・厚生労働省「NIPT 等の出生前検査に関する専門委員会報告書」https://www.mhlw.go.jp/content/000783387.pdf
- ・厚生労働省 NIPT 受検者のアンケート調査の結果について(NIPT コンソーシアム資料) https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000754902.pdf
- ・佐々木愛子ら. 日本における出生前遺伝学的検査の動向 1998-2016. 日本周産期新生児医学会誌 54:101-107, 2018. https://researchmap.jp/7000009354/published_papers/34142093
- ・Lo YMD, Corbetta N, Chamberlain PF, et al. Presence of fetal DNA in maternal plasma and serum. Lancet. 1997;350(9076):485-487. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9274585/
- ・ACOG Practice Advisory「Screening for Fetal Chromosomal Abnormalities」(2026 年 1 月更新) https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/practice-advisory/articles/2026/01/screening-for-fetal-chromosomal-abnormalities
- ・BGI Genomics「Large-scale implementation of first-tier NIPT (Hebei Province)」https://www.bgi.com/global/news/large-scale-implementation-of-first-tier-nipt-nature-health
- ・Liang D, Cram DS, Tan H, et al. Retrospective analysis for 424,330 first-line screening results of non-invasive prenatal testing in Hebei Province. Zhonghua Yi Xue Yi Chuan Xue Za Zhi. 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36562223/
- ・時事通信「出生前診断、妊婦の 1 割超実施—10 年余りで 4 倍に」(2026 年 6 月) https://www.jiji.com/jc/article?k=2026060100536&g=soc
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